2017年2月12日日曜日

2月の読書(1)

気がつけばはや2月。各地大雪で大変そう。暦の上ではすでに春なのに。今年はどうやら波乱含みの一年か。

【オスカー・ワオの短く凄まじい人生】ジュノ・ディアス(都甲幸治・久保尚美訳・新潮社)
ドミニカ共和国について、知っていることと言えば何人かのプロ野球選手、暑い国、ということぐらい。実は長年にわたって独裁政治が行われていて、アメリカ合衆国がその後押しもしていたらしく、ひどい時代が続いていたようだ(詳しくはWikiなどでどうぞ)。
という不毛な時代のドミニカという国と、その出身でアメリカで暮らしている家族、というのをバックにした小説。
といっても、堅苦しさは微塵もない。それどころか主人公のオスカーは、もてナイ君代表のような見目も中身も同しようもないオタク青年。出だしから本文を凌駕するような注釈(主にアニメやSFなどのオタク系の詳細な解説)に圧倒される。しかし話が進むに連れて、その家族のなりたちや政治的背景が浮き彫りになり、オスカーの「短く凄まじい人生」は・・・。という、いやはや色んな意味で「圧倒的な」小説であった。

【美について】ゼイディー・スミス(堀江里美訳・河出書房新社)
何事にもリベラルを貫こうとする(故に諧謔的にもなっている)美術史家大学教授ハワードと、そのライバルである保守派・クリスチャンのキップス。キップス家の次女ヴィクトリアとハワード家の次男ジェロームとの関係から始まって、一見ハチャメチャな展開ともいえる人間関係の渦が繰り広げられる。いやはや。
さまざまな対立の構図が展開され、人の心は一筋縄ではいかんのだなあと(あたりまえなのだが)思い起こさせてくれる。いや、楽しい物語ですよ。分量が多くて読み終わるのは大変だけど。

【神よ、あの子を守りたまえ】トニ・モリスン(大社淑子訳・早川書房)
ノーベル賞作家トニ・モリスンの新作(2015年)。両親よりも黒い肌を持って生まれてきたブライド。母の愛を得るために取った行動がトラウマとなって彼女を苦しめる。
非現実的な部分もあるのに、とてもリアル。謎解きの面白さもある。
なにより、2015年作ということは、84歳! にしてこのパワー溢れる作品のタッチ! 恐ろしきはトニ・モリスン。ひれ伏すしかありません。ははあ~。

【海に帰る日】ジョン・バンヴィル(村松潔訳・新潮社)
妻をなくした男が訪れた場所は、少年の頃に過ごした海岸。かつて彼は、そこで恋(精神的にも肉体的にも)に目覚めたのだった。少年の遊び友達だった双子の姉弟とその両親との日々。
時間軸があっちに行ったりこっちに行ったりするのはバンヴィルの得意とするところ。死に瀕している妻の話になったり、子供の頃の話になったり、現在の話になったり。そして時々記憶違いがあったり(それを記憶違いと知りつつ、そのまま話を進めていく)。という不思議さ。
時制がはっきりしている英語の原文だったら、もっとおもしろいのかも。ブッカー賞受賞作。

直木賞受賞を記念して(勝手に)、恩田陸作品をまとめて読み直そうとしています。
【雪月花黙示録】恩田陸(角川文庫)
最近の作品。学園ファンタジーもの。こんなものも書けますよ、といったところ。

【球形の季節】恩田陸(新潮文庫)
デビュー間もないころの作品。結末が曖昧なところが、わたくしの好みです。

【不安な童話】恩田陸(新潮文庫)
こちらも初期の作品。結末が、曖昧というより、二重、三重の仕掛けがあるのが恩田陸流なのですが、すでにその特徴が。

【木曜組曲】恩田陸(徳間書店)
こちらも同様。これで終わりか、というところからさらに深い「真相」に行き着くところがねえ。はまりますなあ。

【三月は深き紅の淵を】恩田陸(講談社文庫)
これ、ちょっと変わってますね。「三月は深き紅の淵を」という本をめぐる連作。本文の中に、作品の内容が入れ子のようになっていて、というのがまた作品中に書かれていて、という、なかなか凝った作品。ちょっと凝りすぎたかも。
「木曜組曲」とこの作品と、「本」を主題とした作品が続きました。途中で作者の「小説観」みたいなものがちらっと見えるようなところがあって、そこも面白かったですね。

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