2014年12月31日水曜日

【失踪者たちの画家】ポール・ラファージ(柴田元幸訳・中央公論新社)

これが本当に今年最後のアップになるでしょう。

ポール・ラファージという作家はよく知りません。訳者あとがきを読むと、柴田元幸さんもよくわからないようですが。しかし作品はとても面白いです。

どこかわからない都市。アパートの一室でスケッチをするフランク。向かいのアパートの窓に見える女性が忘れられなくなります。やがて町で偶然その女性に出会います。彼女プルーデンスは、事故現場を専門に撮影する写真家でした。
彼女と付き合ううち、スケッチの内容は死体の表情になっていくフランク。しかしある日、プルーデンスは姿を消してしまいます。
そんなフランクは、近親者が失踪した「サロン」に誘われます。やがてサロンに集まる人たちから、失踪した人たちの似顔絵を書くように頼まれるようになります。それがフランクの運命を変えてしまいます。

社会派SFのようでもあるし、寓話的でもあるのですが、現実と夢想との境目がとても曖昧で、結末も「結末」といえるのかどうか。
でも、こういう味わいは大好きです。

2014年12月30日火曜日

12月の読書

あっという間に12月も終わりそうです。ということは1年が終わりそうということですね。
慌ただしい気分はいつもと同じです。どうやら年齢を重ねると時の経つのは速く感じてしまうらしいです。
それはきっと、毎年同じことをする機会が多いせいでしょうし、経験を重ねると次に何が起こるかがある程度予想出来てしまうからといこともあるのでしょうね。
つまり、時を重ねることのわくわく感というか、期待感、あるいは不安感というものがなくなって、そうなるとやってくる時間、過ぎていく時間をより客観的に見てしまう、ということがあるような気がします。
もちろん、そうは思わない時もあるし、思った通りにいかない(実はこちらのほうが多いはずなんだけど)時もあります。そんな時は、時間がゆっくり過ぎていくんですね、きっと。でもそういう時間は、少なくなったなあ。

【人生は彼女の腹筋】駒沢敏器(小学館)
初めて読んだんですけど、実に面白いです。レイモンド・カーヴァーやポール・オースターの色が濃いなあと思います。と思ったら、翻訳もしてはるんですね。昨年不慮の死を遂げたそうですが、惜しいことをしたなあと思います。村上春樹を凌駕していると、個人的には思うので。

【真綿荘の住人たち】島本理生(文藝春秋)
今年は西加奈子イヤーでした。で、西さんが「サラバ!」を書くきっかけというか、10年目に長編を書きたいと思ったのが、島本理生さんが10年目に長編を書いて、それが素晴らしかったから、というのを理由の一つにあげていたので、ではどんな作家なのか(読んだことがなかった)読んでみたのです。
よくある「一つ屋根の下」ものなのですが、登場人物に作者の個性が出ますね。で、この個性はあまり見たことがないかも。ちょっと好きですね。

【愛の風見鳥】田辺聖子(集英社文庫)
【愛のレンタル】田辺聖子(文春文庫)
昔の「恋愛小説」ですけど、今読んでも結構面白いです。というか、ここの時点(60年代?)から、男女の関係ってあんまり変わっていないのかなあと、ちょっと寂しい気もしますね。

【イン・ザ・ヘブン】新井素子(新潮社)
久しぶりの新井素子さん。しかし相変わらずの破滅型というか終末型SF。「希望」や「勝利」や「勇気」なんていうありきたりの人生応援が流行りまくりの昨今では、むしろありがたい存在だと思います。同年代やし。
終末型、なんだけど「希望」もあるし、その中で生きていこうという「勇気」もありますよ。

【できないことはやりません】佐久間宣行(講談社)
テレビ東京のディレクター。人気番組の裏側、TV局の内情を語ってくれるのかとおもいきや、ただの自慢話でした。

【蛇行する月】桜木紫乃(双葉社)
芥川賞を受賞した「ホテルローヤル」よりも分かりやすい。そして共感しやすいです。

【ホーソーン短編小説集】ホーソーン(坂下昇編訳・岩波文庫)
「緋文字」の作者の短篇集。あまり面白みがなかったな。

【ボディ・ブレイン】下柳剛(水王舎)
ちょっとありきたりの精神修養論ぽくて、残念かなあ。いろいろためにはなったけど。

【かかとを失くして/三人関係/文字移植】多和田葉子(講談社文芸文庫)
【傘の死体とわたしの妻】多和田葉子(思潮社)
【海に落とした名前】多和田葉子(新潮社)
【献灯使】多和田葉子(講談社)
【聖女伝説】多和田葉子(太田出版)
【溶ける街透ける街】多和田葉子(日本経済新聞出版社)
【飛魂】多和田葉子(講談社)
【ヒナギクのお茶の場合】多和田葉子(新潮社)
何度も言っていますが、次に日本人でノーベル文学賞を取るとしたら、間違いなく多和田葉子さんだと思っています(個人的な思い入れだけど)。
言葉の持つ不思議に真摯に向き合う姿勢。それはいつも変わりませんね。
初期の「かかとを失くして」よりも、最近の「溶ける街透ける街」や「献灯使」のほうが、個人的には好みです。特に最新刊の「献灯使」は、寓話的なSFタッチと社会性を一つにしたような作品で、安部公房を彷彿とさせますね。そういう道に進んでいくのかなあ。

【時計じかけのオレンジ】アントニイ・バージェス(乾信一郎訳・早川書房)
キューブリックの映画でも有名な(むしろそのおかげで有名になった?)作品です。近未来の「犯罪抑制」の恐ろしさを描いているのだけれど、どこか間が抜けているような印象もありますね。
この翻訳はとても良く出来ていて、スラングをカタカナのまま表記して、ルビで補っているんですね。妙に日本語っぽい言葉を当てはめなかったのは正解ですね。いい感じ。

【ピギー・スニードを救う話】ジョン・アーヴィング(小川高義訳・新潮文庫)
ジョン・アーヴィングの、珍しい短篇集。作者の作風のエッセンスのようなものを味わえます。というか、こういうのが長ーくなって、あの作品群ができているわけですね。
個人的には、こういう短編でもいいんじゃないの、と思ってしまいますが。


まとめて書くと、細かいところは覚えていないし、おかげでちゃんとした批評にもならないですね。いやはやなんとも情けない。
個人的な備忘録としても書いているので、批評にならなくてもいいのですが、どんな本を読んだかが後になったらわからないというのは、やはり困りものです。読んだかどうかさえわかっていないものもあるし。

というわけで、来年の目標は、できるだけ書き残す、ということにしましょう。

2014年12月8日月曜日

11月の読書

師走、になりました。
あっという間に一年も過ぎ去ろうとしています。
のんびりと見過ごす、ということは、年の終わりでもできそうにないのが悲しいですね。
今自分が生きているこの世界が、本当に確かなものなのかどうか、問いかけながら日々を過ごしているような気がします。
そんなことを考え続けるのは、柴崎友香を続けて読んだからかもしれません。
どれも「確かに、今は、今?」という問いかけの中から生まれている作品に思えます。よくある恋愛モノですら。

【春の庭】柴崎友香(文藝春秋)
【また会う日まで】柴崎友香(河出書房新社)
【ビリジアン】柴崎友香(毎日新聞社)
【寝ても覚めても】柴崎友香(河出書房新社)
【ドリーマーズ】柴崎友香(講談社)
【きょうのできごと】柴崎友香(河出文庫)
【週末カミング】柴崎友香(角川書店)
【きょうのできごと、十年後】柴崎友香(河出書房新社)


【人間小唄】町田康(講談社文庫)
うむむ。忘れた(^_^;)


【ヤバい経済学】S・D・レヴィット、S・J・タブナー(望月衛訳・東洋経済新報社)

確かにやばい。そして、経済学の分析と思わせて(たしかにそうなのだろうけれど)数値的な裏付けは、本当にそうか? と思います。ただ、「視点を変えてものごとを見る」というのは大事、そして面白いということは分かる。


【この話、続けてもいいですか。】西加奈子(ちくま文庫)
【ごはんぐるり】西加奈子(NHK出版)
【西加奈子と地元の本屋】大阪の本屋発行委員会/編

買ったはいいけど、まだ読んでないんです。「サラバ!」。エッセイは、まあまあ。まあ飲み話が多いから、ということもあるんだけど。素顔が見れて面白い、楽しい、というのはありますね。


そのほか(1冊ずつ考えるのが面倒になってきたorz)

【暮らしを旅する】中村好文(KKベストセラーズ)
【ああカモカのおっちゃん】田辺聖子(文春文庫)
【本覚坊遺文】井上靖(講談社)
【大きな熊が来る前に、おやすみ。】島本理生(新潮社)
【M/Tと森のフシギの物語】大江健三郎(岩波文庫)