2014年8月31日日曜日

8月の読書

今年は広島カープかなあ、などと思っています。あ、今、タイガースの試合を見終わったところなので。この夏はいろんなことがあったし、前からカープは良いチームだなあと思っていたし(カープファンになろうかなあと考えたこともあった(今も考えている?)し)。

そんなこんなで8月も終わりますね。

【フォトグラフール】町田康(講談社)

いろんな写真に、面白おかしく文章を添える。その発想は昔からあると思いますけど、さすが町田康は、スカシ方とかが他とは違うなあ。ま、それだけですけど。


【be soul】高橋大輔(祥伝社)
【乗り越える力】荒川静香(講談社)
【ステップ・バイ・ステップ】小塚崇彦(文藝春秋)

フィギュアスケーターシリーズ3冊。三人三様。感覚的、感情的で、ややコンプレックスもあるけれど前向きになろうとするバンクーバー五輪前の高橋大輔。金メダルの実績から若い人たちに伝えたいことを誠実に綴る荒川静香。常に冷静に一つ一つの演技や競技を振り返る小塚崇彦。それぞれのスケートのとおりやなあと思えるところもあって、興味深いです。個人的に、わかりやすいけどおもしろみのないのが小塚、屈託だらけでよくわからないけれど興味が尽きないのが高橋、といったところです。


【大阪学】大谷晃一(新潮文庫)
【続大阪学】大谷晃一(新潮文庫)
【大阪学 文学編】大谷晃一(新潮文庫)

大阪独特の地域性、個性はどこから来たのか、を解き明かそうとする試みです。3冊続けて読むと、「武家社会ではなかったこと(江戸時代では稀有なことだったらしい)」が大きな転換点であったように思えます。そして自分を振り返った時に、まさにこのとおり、と思うことが多くて、その理由が解き明かされるようで、となると自分の立つところがここ、と言われているようで、大阪人としてはありがたい読み物でした。


【ゴランノスポン】町田康(新潮文庫)

題名については本作を読んでもらうとして。町田康得意のバックドロップを楽しみましょう。


【空飛ぶ馬】北村薫(創元推理文庫)

北村薫のデビュー作(短編連作)。落語家探偵(と呼んでいいのか)円紫さんと古典研究の大学生(わたし)が謎を解明していきます。血なまぐさい事件は起こらないけれど、本格的な推理モノとして楽しめますね。


【獣の奏者-闘蛇編-】上橋菜穂子(講談社)

上橋菜穂子はあまり興味がなかったのですが、テレビで見る機会が何度かあって、まあ読んでみようかなと思ったわけです。さすがに物語の展開が面白いです。児童文学なんだけど、ちょっと強烈な場面も。それでも「読ませる」技術はすばらしいですね。続きがすぐに読みたくなりました。


【月は無慈悲な夜の女王】ハインライン(ハヤカワ文庫)

SF名手ハインラインの1967年ヒューゴー賞受賞作。2067年、地球の植民地となっていた月で反乱が起きる。主導するのはコンピュータエンジニアのマニー。協力するのは「感情を持つ」コンピュータ「マイク」。武器を持たない「月人類」に勝ち目はあるか?
さすがに時代がかった設定と言えなくもないですが、映像化したら今でも受けるんじゃないかという内容でもありますね。それだけ先進的だったということもできるし、ここからSFがそれほど発展していないんじゃないかという懐疑的な見方もできてしまいます。まあそんなややこしいことを考えずに楽しめる冒険談ではあります。


【名演奏のディスコロジー】柴田南雄(音楽之友社)

1977年の雑誌連載をまとめたもの。その当時の「先進的」「前衛的」な音楽・演奏について、作曲家柴田南雄が思いのままに批評を展開しています。はっきりと「これは私好み」「これは今の私の好みじゃない」と言ってくれるので、あれこれ詮索せずにそれぞれの演奏について知ることができます。ただし、あくまでも柴田氏の視点で、ということですが。
それにしても、これが書かれてからもう35年以上が経っているというのに、いまだにシェーンベルクもウェーベルンも「古典」にはなり得ていない、という事実は、どうなんですかねえ。


【パーク・ライフ】吉田修一(文藝春秋)

芥川賞受賞作。公園で出会う人達と主人公とのふれあい。みたいな話だったかな。すみません、あまり覚えていません。こういう「私小説」は語り手である主人公に共感できるかどうかが大事だと思うのですが、どうもこの主人公とは分かり合えないようです。


【地下の鳩】西加奈子(文藝春秋)

西加奈子。面白いです。先日の「漁港の肉子ちゃん」につづき、これを読めてよかったです。「地下の鳩」と「タイムカプセル」の2作。連作といっていいのかな。キャバレーの呼び込みをしている「吉田」と美人でもないバーのチーママの「みさを」の物語が中心の「地下の鳩」。その友人でもあるオカマバーの「ミミィ」の物語「タイムカプセル」。どちらも読んだあとに心に残るものがあります。子供の頃のトラウマ。与えた方は何も感じていないけれど、与えられた方はいつまでもそれに苦しむことになる。それをどう乗り越えるか、答えはないけれど。


月も変わります。明日からはどうかもうちょっとマシな毎日に、と願わずにいられません。

2014年8月5日火曜日

鹿島田真希 3題

あそこでは大雨、こちらでは猛暑と、日本の気候はどうなっているのかと思いますね。こんなんでオリンピックとかやって大丈夫なのかなとか。夏場じゃなくて、前回の東京五輪と同様に秋にやったらどうなのかなとか。オリンピックは夏のもの、というイメージが大きいから仕方ないかもしれませんが。

【ハルモニア】鹿島田真希(新潮社)
【女の庭】鹿島田真希(河出書房新社)
【暮れていく愛】鹿島田真希(文藝春秋)

前に読んだ「冥土めぐり」(芥川賞受賞作)が、まあまあ面白かったので、新刊が出た(ハルモニア)を機会にちょっとまとめて読んでみました。といっても、それぞれが短いものですから、すぐに読めてしまうのですけれど。

「ハルモニア」は、音楽大学に通う4人の学生たちの話。才能豊かな(でも他人との関係には無頓着な)ナジャを中心に。まあ話の中心は語り手「僕」とナジャとの恋愛、ということになるのかな。恋愛に関しても、「音楽を極める」手段としかとらえられないようなナジャと、それを知りつつ心惹かれる僕。理愛し合えないことを前提に理解する、という難しいことをやってるような気がしますね。まあそれって、日常でやっていることかもしれませんが。
音楽大学が舞台なのでということもあってか、いろんな例えが音楽用語や楽曲解説のように出てくるのですね。音楽に明るくない人が読んでも分かるのかなあ。シンフォニーのように恋愛する、って言われてもねえ。

「女の庭」は、ちょっと怖いです。マンションでの主婦たちの井戸端会議。隣に引っ越してきた外国人女性。多分ひとり暮らし。もちろん格好の噂の種。しかし、ふと自分も他人には同じように見られているのではないかということを考えると、恐ろしいし、そうならないように話を合わせようとしたりして。

「暮れていく愛」は、夫婦のモノローグが交互に出てくる構成。それぞれが相手を思いやり、思いやるあまりに苦しくなる。自分勝手に相手を束縛しているのではないか。いやひょっとしたら浮気をしているのかも。自分と居るのが嫌になった? そうならないようにしたい。いつも一緒にいたい。相手を自由にさせてあげたい。
相手を思いやることが相手を束縛することにつながるかもしれないのですね。愛は難しい。

どの話も、「相手との関わりをどうするか」ということを、とても突き詰めて書かれているなあと思いました。二重三重に物事を捉えだすと、無限ループにはまってしまいそうになるんですけど。そこが面白いと思いだしたら、自分自身が逃れられなくなりますね。

2014年8月4日月曜日

【舞台】西加奈子(講談社)

結局、この土日は雨雨雨で、タイガースの試合もなく、のんびりとした2日間になりました。まさに雨読状態。

【舞台】西加奈子(講談社)

この題名で、舞台はニューヨーク、となると「舞台人を目指してマンハッタンへやってきた日本人」の話かなと思ったら、全然違っていました。

29歳・無職の葉太は、父の遺産でニューヨーク・マンハッタンへと一人旅。初めての海外旅行、一人旅で、やりたかったことは「セントラルパークで本を読む」こと。借りていたアパートメントからセントラルパークのシープメドウへ。念願かなって、さて芝生の上で読書、と本を開いたところで、持っていたカバンを盗まれてしまいます。カバンの中には、パスポート、財布、クレジットカード、帰りのチケット...すなわち「すべて」が入っていました。突然の出来事に、なすすべなく立ち尽くし、薄笑いを浮かべるしかない葉太。しかし、「ニューヨークに着いた途端にカバンを盗まれたマヌケなやつ」と思われるのはいや。そこから、サバイバルな生活が始まるのです。

他人の視線を気にするあまり、おかしな行動にハマってしまうマヌケなやつ、なんですが。読む進むうちに、人間誰しもそういうところがあるよなあ、ということに気付かされます。このブログにしたって誰かに読まれることを想像して書いているわけですし。そういうはっきりとした行動でなくても、ちょっとしたこと(道を歩くこと、電車にのること、椅子に座って伸びをすること)や、儀礼的なことも含めて、わたくしたちの周りは「誰かに見られている」ことの連続なのだなと思います。

「自分らしく、正直に生きろ」と、言うのは簡単ですが、なかなかそうは行きません。結局は誰しもがこの世の中という「舞台」で、「自分」を演じ続けているだけ、なのかもしれませんね。
というふうに書いてしまうと、ありきたりな小説のように思われるかもしれませんが、さすがに西加奈子は違いますよ。
主人公の葉太に「こいつ、阿呆ちゃうか」とツッコみつつ、「ああ、あるある」と納得させられてしまいます。

2014年8月3日日曜日

【それでも前を向くために】高橋大輔(祥伝社)

今日は久しぶりに一日中雨でした。晴耕雨読そのままに、読書の一日です。

【それでも前を向くために】高橋大輔(祥伝社)

フィギュアスケーターシリーズ(勝手にそうなっていますが)の4冊目。今回はソチ五輪代表選考を間近に控えた時期の高橋大輔選手。
まえがきにあるように、どこか自分を見つめなおすために書いたようなところもありますね。それだけ正直な心境を綴っているともいえますが、思いのまますぎてよくわからないというか、まあ人間誰しも、自己矛盾な部分はあるから、そうなってしまうのは当たり前というところもあるんですけどね。
例えば、技術(体力)は大切だ、と言うてみたり、気持ちの持ちようだと言うてみたり、みたいなところ。鈴木明子にもありましたけど。つまりは両方がバランスよくいっているとうまくいくんでしょうけどね。というのは分かりますね。
ヘタレだけど負けず嫌い、というところは、四人兄弟の末っ子という共通項があるわたくしには(わたくしは姉が二人だけれど)よく分かります。

2014年8月2日土曜日

7月の読書

暑い日が続いていますね。と言っている間に、もう8月になってしまいました。あっという間ですね。

暑い日には外に出ず、読書あるいは音楽鑑賞あるいはテレビ。テレビも、気に入ったドラマや映画を録画しておいて、気に入った時間に(つまり涼しい状態で)見るのがよろしいですね。

この数日は本当に暑くて、家でじっとしていることが多かったので、読書も進みました。


【風】青山七恵(河出書房新社)

芥川賞作家の作品を久々に読みました。受賞作は、あまり印象にないのですが、確か村上龍と石原慎太郎が揃って会見したような記憶があります。
で、まあちょっと奇妙な味の家庭小説、といったところです。すみません、今回もあまり印象に残ってないので。


【バナナ剥きには最適の日々】円城塔(早川書房)

引き続き、芥川賞作家の新しい作品ですね。しょっとSFがかっていて、青山七恵よりさらに奇妙です。言葉遊び的なところもあるし。でも、ここまで行くとわたくしの趣味に入ってくるのですね。つまりは、よい読み手とはいえないのかもしれませんが。誰に迷惑をかけるわけでもないので、許してもらいましょう。


【穴】小山田浩子(新潮社)

はい、昨年の芥川賞受賞作ですね。
結婚して数年後、夫の元実家に引っ越すことになった夫婦。しかし、奥さんの周りには奇妙な出来事が次々に起こる。さらに、今まで知らされていなかった弟の存在まで。
大事件が起こるわけではないのですが、そこはかとなく、怖いです。


【猫語のノート】ポール・ギャリコ(灰島かり訳・筑摩書房)
【猫語の教科書】ポール・ギャリコ(灰島かり訳・筑摩書房)

猫好き作家、ギャリコの猫本2題。「ノート」は、最近よくある猫の写真にひとこと載せたようなものです。「教科書」は、「猫が、自分の手で(足で?)書いた、後輩たちへのメッセージ」という体裁の、実によくできた話です。最初の「どうやって人間の家を乗っ取るか」の章には、思わず笑ってしまいますね。


【余生返上】大谷晃一(ノア編集工房)

今年亡くなった、「大阪学」などの著書があり、テレビのコメンテーターとしても有名だった大谷さんの、たぶん、最後の本でしょう。
長年連れ添ってきた奥さんを亡くした空虚感。そこから立ち直って、またエッセイを書き始める話など、飾り気のない文章で綴られています。最後の「死亡記事」(自分の)が、なんとも。


【ひとつひとつ。少しずつ。】鈴木明子(KADOKAWA)
【蒼い炎】羽生結弦(扶桑社)
【空に向かって】安藤美姫(扶桑社)

フィギュアスケーターの著作を、まとめて読みました。著作、といっても、本人が書いただろうというのは鈴木明子のみで、あとの二人は青嶋ひろのがインタビューを再構成する、という形になっています。
となると、鈴木明子のものが選手の本音が出ているのか、といえば、そうでもないのですね。自分で書くとなると、どこか飾ってしまうところがあるのかなあ。いい言葉もあるんだけど、よく聞く人生訓だなあと思ってしまったり。当たり障りがないというか、「本人が書いた」という特殊性のようなものは薄いですね。
で、インタビュー中心の2冊は、逆に「ぽろり」と出てしまう本音があったり、あるいは聞き手である青嶋ひろのがその時感じた選手の思いのようなものが出ていて(というか、意識して書き起こしているのでしょうけど)、読み物としては面白いです。
ちなみに、鈴木明子のは最近の出版。羽生結弦は震災の年の、次の世界選手権を目指してようやくみんなの注目を集め始めだした時のもの。安藤美姫は、バンクーバー五輪の直前の心境。という風に時期がずれています。ということで、羽生、安藤の2冊は、「あの時、こんなことを思っていたのか!」という面白さもありますね。


【昭和の犬】姫野カオルコ(幻冬舎)

直木賞受賞作。姫野カオルコはわたくしと同世代です。だからここで言う「昭和」というのは、わたくしの感覚にぴったりマッチしてしまいます。それだけでもう半分以上気持ちのいいところに行ってしまいますね。
まだどこかに「戦後」が残っていた時代。この主人公のお父さんのような人は、確かにいましたね。ありそうもない話のようで、とてもリアリティがあります。そんな話が本当に「面白い」話なんでしょうね。姫野カオルコは、ちょっとこれからも気になりそうです。


【恋歌】朝井まかて(講談社)

姫野カオルコと同時に直木賞を受賞した作品。
明治初期。歌人である師匠が入院することになり、身の回りの整理を頼まれた弟子の花圃は、若き日の師匠の手記を見つける。その内容は。。。。
幕末の混乱期に、江戸の商家から水戸家に嫁いだ登世。慣れない武家での暮らしに戸惑うばかり。その上、夫は水戸藩の内乱に巻き込まれ、自身も悲惨な境遇に。
波瀾万丈の展開なんですけど、正直、こういう「武家もの」は苦手です。結局は武士とその家族の生き方、生き様を美化しているような気がしてしまうのです。
それから、わたくし、幕末から明治維新にかけての歴史には、とんと疎いのです。薩摩がどうした、長州がどうした、御三家は、皇女和宮は。。。。と続くと、頭が混乱してしまいます。こういう歴史物が好きな人にはこたえられないのかもしれませんし、この程度の歴史は知っていて当たり前なのかもしれませんが。
「知っていて当たり前」という感覚は、どこかライトノベルに近いものがあるような気もしますね。ということで、歴史物が廃れないわけは、ライトノベルが廃れないことと同じような理由なのかもしれません。いや、もちろんこじつけですけど。


【女のいない男たち】村上春樹(文藝春秋)

村上春樹の新刊ですね。いかにも春樹風の、中年の恋愛もの短篇集です。まえがきなどにだらだらと作品の作成経緯などを書くところも春樹流。
悪くはないんですけど、「さすが村上春樹!」とか「春樹でなくっちゃ!」と思わせるものには乏しいです。読者は贅沢なんです。


【漁港の肉子ちゃん】西加奈子(幻冬舎文庫)

最後に、7月の読書でのイチオシを紹介しましょう。
小学校高学年のキクりんこと喜久子の母親は、名前も同じ菊子(字が違う)だが、その風貌(不細工で太っている)から「肉子」と呼ばれている。そう呼ばれても、「肉子」はとても嬉しそう。そんなにブサイクなうえに、男にはホイホイとダマされる。借金を背負わされて必死で働かなければならないはめに、何度もなっている。それでも反省も公開もしない肉子ちゃん。多感な時期のキクりんには、そんな母親が時に疎ましくもあり、しかし心の底から大好きでもある。
流れ流れてたどり着いたとある漁港。そこにある焼肉屋で住み込みで(ということだろう)働くことになる。
海岸の三老人。変顔の二宮。フリフリ服のマリアちゃん。キクりんと肉子ちゃんを取り巻くいろんな人達の人間模様。
ありそうもないシチュエーションがあっても、なんでもかんでも笑い飛ばし、心のままにありのままに受け入れる肉子ちゃんの生き様に、きっと励まされることでしょう。