どんな考え方を持つのも人の自由ですが、他人を傷つける権利は誰にもないと思います。それは宗教ですらないと、わたしは思います。
「旅をする裸の眼」で、多和田葉子クールはひと段落です。
先に読んだ「変身のためのオピウム」とは違って、かなり具体的な物語から始まります。
ベトナム生まれの主人公の女性は、東ドイツの社会主義青年党(多分)の講演会に招かれてスピーチをすることになります。
その講演会の前日、ホテルのレストランで知り合った男性と食事をします。男性とウォッカを飲み、音楽に包まれているうちに、どういう成り行きか自分でもわからないまま(意識もないまま?)に「西側」に行くことになります。
さて。ここからが多和田ワールド全開です。
気がつけば西ドイツ。そこからなんとか「モスクワ」に行こうとして、電車に飛び乗ったら、それは逆方向で、彼女はパリへ。
パリでの生活は(パスポートもなく、言葉もわからないから)不自由なことが多く、映画を見る日々。
映画の中で起こっていることと現実との境目が、だんだん曖昧になってしまいます。
そういうわけで、はじめのうちは「多和田葉子にしては珍し」と思いつつ読み始めるのですが、途中から、突如として場面が変わったり、関係のない人の会話が挿入されたりと、いつもの作風に振り回されることになります。それが気持ちいい。
そしてラスト。今まで読んできた話は、一体どこまでが現実だったのだろうという不思議な感覚。本の中に起こっていることはもちろん現実ではないのだけれど。
ほんまにこの人の作品は、うっかり読み飛ばすということを許さないものばかりです。今雑誌に連載中の作品がまとまったら、また読んでしまうでしょうね。
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