2017年1月18日水曜日

【書記バートルビー/漂流船】メルヴィル(牧野有通訳・光文社古典新訳文庫)

【書記バートルビー】

1800年代のアメリカ、ウォール街。弁護士事務所に雇われたバートルビーは、書類の写しの仕事を淡々とこなす。しかし、いざ確認(読み合わせ)の段階に入ると、
「わたしはそれをしない方がいいと思います」
と言って、自分の部屋に閉じこもる。さらに他の用事をいいつけても、
「しない方がいいと思います」
と言ったきり、実際何もしようとしない。そのうち、写しの仕事すらやらなくなり、ただそこに存在するだけの人間になってしまう。

なんとも奇妙な物語。「ジニ」とは正反対に、あらゆることに無関係になろうとするバートルビー。さらに奇妙なことは、雇い主である語り手はそれをどうすることも出来ず、訴えようとすると、逆に良心の呵責に襲われてしまう。それはなぜなのか、本人にも説明がつかないのである。

人間の精神の奥底を覗こうとするメルヴィルの作品、ということから考えると、私達の心の何処かにバートルビーがいるのかもしれない。などという深読みが、どこまでも出来てしまう作品。


【漂流船】は、ある港に漂着した船で起こる出来事を描いた、一種のサスペンスもの。こちらは変わった話ではないが、後日談がだらだらと続くのがメルヴィル流。

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