2016年6月11日土曜日

【グ、ア、ム】本谷有希子(新潮文庫)

寓意が読み取れる人は、などと書いたけれど、たいがいの小説はある寓意が含まれているものである。多かれ少なかれ、作家の思想が出てくるのが当たり前だし、それを排除すればそれはただのレポートになる。そういうのを意図した小説というのもあるけれど、そんなのを読んで面白いですか? いや、読んでみないと分かりませんけど。ということで結局は「読んでみないと分からない」のだ。

「グ、ア、ム」。前にも読んだはずなのだが、すっかり忘れていた。今は成人した二人の娘と父親と二人暮らしになった母親が、父親のすすめでグアム旅行に出かけるという話。自分勝手で、ものごとがうまくいかないのは自分のせいではないと思っている長女、そんな長女を反面教師として、高卒で信用組合に就職して堅実な人生を歩もうとする次女、何かにつけて反目する二人の間で右往左往する母親。
そんな3人がグアム旅行で家族の絆を取り戻す、はずもなく、旅行はさんざんな内容に。おりからの台風直撃でリゾートは壊滅状態。次女は虫歯の治療直後で頬の中がズキズキする状態。
世の中の「家族なんだから」という定型句を真っ向から破壊する本谷有希子の潔さ。そう、「家族だから」なんて妄想にすぎない。家族だからいがみ合う。というより、人間同士はいつか根本からわかり合えるものなのだ、という考えそのものがどうなんだか、と思うのである。人と人は違っていて当たり前。というところから始めないと。そして留守番する父親は、家族の「平穏」の象徴であるかのようなウサギを、後生大事に飼い育てるのである。そのウサギにしたって、実はもう何代も代替わりしているのだが。そういうことには目を瞑る。それも大事なのか。

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