2015年8月17日月曜日

【オレンジだけが果物じゃない】ジャネット・ウィンターソン(岸本佐和子訳・国書刊行会)

ジャネット・ウィンターソンの自伝的小説。
教会に狂信する母親に、児童施設からもらわれて、伝道師となるべく教育を受ける。学校にも行かず、同年代の子どもとは協調できないが、神の意志を第一に考える人間へと育っていく。
なにもかも母親に管理される生活が続いたが、好きな女性ができたことで、神への背信と自分の心に正直に生きることとの間で悩みぬき、ついに母親の手から逃れて、新しい生活へ。

と、これが大筋なんですけど。
さすがジャネット、大筋の合間合間に、なんの境目もなく民話だとか童話だとか、ついには円卓の騎士の物語までが挟まってきて、やはり話は時空を越えていくのですね。

題名はなんとなく滑稽だけれど、オレンジだけが果物だと言い張る人たちの中で、
「そうじゃない」という声を上げるのは大変なことなんですね。
終盤、母親はオレンジだけが果物じゃないと言うけれど、
「パイナップルもいいものよね」
と、結局オレンジがパイナップルにとって変わられただけ、ということになるのですね。

自伝的小説とは言いながら、結局は「小説」なのですから、小説として楽しみましょう。

いろんな価値観があっていいし、もっと極論を(ジャネット風に)言えば、今生きている時間と違う時間を生きている自分だっているかもしれないしね。
というふうに考えると、世界は広がって、気持ちも広がっていきますね。

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